初めに
みなさんは「Procedural Objects」というMODはご存じだろうか。
筆者の記事をよく読んでくださっている方であれば、このMODの偉大さはいたくお分かりであろう。
2021年に生配信した「Move It のもっと!易しいすゝめ」では、MOD「Move It」と併用する形でこれの解説をした。
3時間ほどある配信なので、未視聴でこれから見たいよという方は「こういうことができるんだな」程度に流し見るのがいいだろう。
また、2020年に公開されたCSLビルダーズコンテスト様に寄稿したコラムは、気付けば15000回ほど閲覧されているらしい。ありがたいことだ。はえーありがてぇありがてぇ……(実感はないけど)
これはほぼ「Wikiの日本語訳」と言っても差し支えない程、箇条書きで文章が拙いので、これも写真だけ流し見ていただければと思う。
筆者は今までにも、これらProcedural Objectsの解説を行ってきた次第であるが、いずれの解説でも、すべての機能とその活用法を網羅できていなかった。(そもそも機能多いからね、許してクレメンス)
というのも、その後、筆者が思いもしなかったような活用方法が発見された機能がある。
そして、その機能がとんでもなく素晴らしいものだった。
本記事では、そんなある1つの機能について、深く掘り下げていこうと思う。
記事が長くなるため、Procedural Objectsに関する各種機能の説明は割愛する。
(なお、割愛したにも関わらずこの記事余裕で1万文字超えてるのは狂気としかいえない)
以前の解説から、Procedural Objectsの基本的な部分は何も変わっていないからだ。
Procedural Objectsの素晴らしさを知りたい場合は、上記リンクから、筆者が執筆したコラムをご覧になられるといいだろう。
ちなみに、この記事を最後まで読むと、ざっくりこんな感じのことができるようになる。
(「結合」に関する動作が前編の解説とは違うものになっている。これについては中編で解説する。)
カスタムアセットの作り方
この機能のすばらしさを伝えるためには、まず数多のアセットクリエイターによってカスタムアセットがどのようにして制作されているのか、大まかに解説しておく必要がある。
カスタムアセットの内、最も簡単に制作できるであろう看板を例にして、ゼロから完成させるまでのフローチャートを組んでみる。
- テクスチャリング
- モデリングする際に必要になりそうなテクスチャを予め準備しておく。
- a,c,d,i,n,s各種テクスチャマップ(.png)を制作する。
- 再編集が可能なように、GIMP/Photoshopなど画像編集ソフトを使用するとよい。
- モデリング
- 3Dモデル(メッシュ)を作る。Blender/Maya/CADなど3D編集ソフトが必須となる。
- メインとなるモデルと、LODの2つの3Dモデルを制作する(LODについて詳しくは用語集をチェック)。
- モデリングとUV展開を並行して実施する(ことをよしとする派閥に筆者が属している)。
- UV展開
- テクスチャマップと3Dモデルを紐づける。足りないテクスチャなどはここで追加する。
- 終わり次第、LODにつけるテクスチャマップ(lod_a,c,d,i,n,s)をベイクなどして制作する。
- インポート・エクスポート
- Blender/Maya/CADなど3D編集ソフトからモデルをエクスポートする。
- Citiesにアセットをインポートし、3Dモデルとテクスチャを合体させる。
- (パロメーターなどシティーズ内部の各種設定を行う。)
- (サムネイルやツールチップ画像を制作し、アセットの可視性を高める。)
大体こんなところだろうか。
アセット制作エアプだった頃の筆者目線でいえば
「えっ!?アセットづくりってモデリングが一番大仕事じゃないの!?」
と今の筆者を見て言うかもしれない。
ここでハッキリと申し上げておくと、4つどの作業とも大体同じぐらい骨の折れる作業となっている。
これだけでも十分、アセット制作には初心者参入を阻む障壁があることはお分かりいただけるだろう。
しかしこれだけではない。
つかぬことを聞くが、皆さんは1つのアセットを制作するために必要な3Dモデル(メッシュ)とテクスチャの数をご存じだろうか?
そもそも、3DCGの世界では”データの圧縮”が肝要、と言い切っていいだろう。※1
現代の3D技術では、その圧縮の方法として、中等数学で習う「展開図」に近い処理を行う。
平面情報と立体情報、これを同期するデータの3つがあることで、1つのアセットが完成するわけだ。
これらをつくる工程が、それぞれ先述した、テクスチャリング/モデリング/UV展開にあたる。
- 圧縮された平面情報 = テクスチャマップ(.PNG/.JPGなど)
- 立体情報 + 平面情報と立体情報を同期するデータ= 3Dモデル(.FBX/.OBJ など)
ちなみに、テクスチャマップ1枚で全ての平面情報が記述できるわけではない。
1つのアセットを制作するために必要なメッシュは2つ、1つのメッシュにそれぞれ6枚ずつテクスチャマップを準備することができる。(LODについて詳しくは用語集をチェック)
よって、1つのアセットを制作するために必要な素材は、最大(2+2*6=)14個である。
重ねてになるが、これはあくまで1つのアセットを作る工程である。
仮にアセットを50個制作する場合、必要な3Dモデルは最大100個、必要なテクスチャマップは最大600枚になることお忘れなきように。
1つのアセットを制作するために必要な労力が高いことがアセット制作のやる気を削ぐのに十分な理由足り得ることは、今までの説明で十分に伝わったことだろう。
そして、アセット制作には3D編集ソフトと画像編集ソフトが必須であることも大きな障壁であろう。
まとめておこう。アセットづくりをする際には、
- 作業が多いこと
- 必要とする部品が多いこと
- 複数のソフトウェアがある程度使える必要があること
これらがネックとなり、初心者がアセットを気軽に作ってみようという体制ではなかった。
しかし現在、数多のアセットクリエイターが日々活動しており、発売から8年目を迎えたシティーズスカイラインのコミュニティは未だ活気があるように見える。
そこには、どのようにすれば簡便にアセットが作れるかと考えた、アセットクリエイターたちの様々な取り組みの歴史があった。
簡便なカスタムアセット制作の歴史
では、ここからは具体的に、アセット制作の簡易化に使われた代表的な技術を1つ紹介する。
アセット制作の簡易化技術:リペイント
既存のアセットのテクスチャマップの書き換え(=塗り直し(=直訳でリペイント))を行う。
手順は以下の通りだ。
- オリジナルの作者Aがアセットをワークショップに公開する。
このときAは、公開したアセットの構成要素、つまり3Dモデルとテクスチャマップの両方を、ワークショップとは別の場所、例えばクラウドに公開しておき、アセットのパーツが誰でもダウンロードできる状態にしておく。 - コピーの作者B,C,D,…が、これをダウンロードし、そのテクスチャを書き換え、コピー品としてアセットを制作する。
これにより、B以降は、モデリングやUV展開の作業をスキップすることができ、Blenderなどの3D編集ソフトを一切介することなくアセットを制作できるようになった。
画像編集ソフトこそ必要だが、基本的にはオリジナルのテクスチャのごく一部を改変するだけなので、テクスチャリングの労力も大きく軽減されている。
工程がマニュアル化され、使用する編集ソフトを1つ減らしたことで、作業を簡略化したために画像編集に時間を割き、こだわれるとも解釈できる。
3Dモデルは借り物といえど自分でアセットを作ってみたい、というアセット制作未経験者の需要にマッチしている意味でも、リペイントの推進はとてもいい取り組みだと筆者は思う。
リペイントのデメリットを挙げるとすれば、そもそもとして、自由なリペイントを許しているアセット・アセットクリエイターが少ない、ということだろうか。
当然のことながら、作業量の軽減の恩恵を受けられるのはコピーする側、つまりB以降のみである。
それどころか、オリジナルの作者Aはアセットを配布するために、本来の工程では必要のない、圧縮ファイルや工程を記したマニュアルを用意しなければならない。
つまりAは、通常のアセット制作にかかる労力に加えて、リペイントしてもらうための環境整備にかかる労力を追加でペイしなければならない。
これに加えて、筆者の憶測にはなるが、自分のメッシュやテクスチャマップの粗さが他の人に見られてしまう、わざわざ恥を自ら公開などしない、というクリエイターもきっといることだろう。
常識的に考えて、リペイントができるアセットが増えないことは当然のことだろう。
ちなみに、テクスチャマップの中でも、柄・模様・色合いを司るものをディフューズマップという。
リペイントにおいて、基本的にはこれを書き換えるように指示される。大事なので覚えておこう。
リペイントのメリット
- (1から制作する場合と比較して)3D編集ソフトが必要ない。
- あなたが使っている画像編集ソフトをそのまま使える。
- アセットをそのままワークショップに公開できる。
- イルミネーションマップや付属プロップも問題なく使える。(後述)
- 画像編集の自由度は非常に高い。
リペイントのデメリット
- そもそもリペイントを許しているアセット・アセットクリエイターが少ない。
- オリジナルのアセットクリエイターの負担がさらに増大する。
- (Citiesの仕様として)インポートは複数のアセットを作ることに向いていない。
- (テキストカスタマイゼーションと比較して)工数が多い。
- (Citiesの仕様として)インポートの作業をするには少なくとも1度、シティーズのタイトル画面に移動する必要がある。
リペイントは今も現役のアセット制作の簡易化技術である。
アセット制作の難易度を下げる取り組みとして、リペイントの他には、アセット制作に関するマニュアルやチュートリアル動画が制作された。
このようにして、アセットを作ったことがない人がアセットを作りやすい環境が段々と整備されていった。
そんな中、とある衝撃的なMODがリリースされることになる。
Procedural Objectsの登場である。
Procedural Objects の登場
以後、少なくともこの解説記事の中では、
- 「Procedural Objects =(MODの名前)」
- 「PO =(Convert into POされたオブジェクト)
と統一しておく。(コラムや配信でもこの定義を作ってから解説していたような気がする)
このMODがあれば、既存のカスタムアセットを改変することができるようになる。
「アセット制作が難しいなら、そもそもアセット作らなければいいんじゃね?」と言わんばかりの逆転の発想で、都市開発、というよりは箱庭ゲームとしてのシティーズのプレイスタイルを加速させた、代表的なMODの1つだ。
あるアセットの一部分だけ、あるアセットのちょっとだけ斜めになったもの、あるアセットの形のまま大きいサイズのもの。
少しのバージョン違いなら、アセット制作とかいうクソ面倒な工程を完全にスキップしつつ、ワークショップにない3Dオブジェクトをシティーズのプレイ中に錬成できるようになった。
機能は多岐にわたるが、中でも、今回の紹介に必要な機能だけ切り抜いて紹介する。
テキストカスタマイゼーションツール
Procedural ObjectsのWikiによれば、2018年に登場した機能の1つである。
無論、過去の解説にて、その素晴らしさについては深く語っている。少し振り返ってみよう。
テキストカスタマイゼーションツールは、POに対して適用できるProcedural Objectsの機能の1つで、簡易な画像編集ソフトのように、レイヤーを重ねてテキストを配置できる。
Color Rectangle(長方形)をテクスチャ上に配置し、さらにその上にテキストを重ねることで、既存のカスタムアセットの文字を自由に書き換えることができる。
具体的には、看板の地名を書き換えることができる。
フォントについては、複数がワークショップ上に頒布されており、自由に選ぶことができるようになっている。
時代が進むと、長方形を配置して字を消さなくていいように、敢えて無地の看板が制作されるようになった。
テキストカスタマイゼーションの最大のメリットは、そもそもアセットを作らないことで、すべての作業をシティーズのセーブデータをロードしたまま完結させられること、そして、アセットを作らないということは、Photoshopのような画像編集ソフトも、Blenderのような3D編集ソフトも必要ないということだ。
対してデメリットは、これがあくまで簡易的なツールであるため、基礎から応用まで、多方面で仕様上の制限がかかることである。
操作性の難に始まり、フォントの問題、字消しの問題、POオブジェクトそのものの仕様の問題など、問題が山積しており、登場当時こそ度肝を抜く素晴らしい機能であったが、シティーズ内部で完結しているからといって、果たしてそれがリペイントを含む従来の技術より楽になったかどうかについて、筆者は懐疑的に思っている。(詳しくは以下列挙する「テキストカスタマイゼーションのデメリット」を参照のこと)
ちなみに、この時の最下層レイヤーは、テクスチャマップの中でも、柄・模様・色合いを司るテクスチャマップ、つまりディフューズマップである。
テキストカスタマイゼーションのメリット
- (1から制作する場合と比較して)3D編集ソフト・画像編集ソフトが必要ない。
- 誰のアセットであっても、対象が建物かプロップなら、全て改変できる。
- アセット制作の工程を完全にスキップできる(アセットを制作しない)。
- 全ての作業がシティーズのセーブデータがロードされたまま完結できる。
テキストカスタマイゼーションのデメリット
- ツールの使い方を1から理解しなければならない。操作性に多少難がある。
- POをワークショップに公開する方法が一般に認知されていない可能性がある。
- 字消しに使える図形は現状長方形のみで、高度な字消しは無理。
- 字のフォント(POfont)がワークショップにない場合、フォントを自作しなければならない
(たとえWin,Mac等OSにあるフォントであっても、同様にフォントを自作する必要がある)。 - 現状ツールで使えるものは長方形と文字のみ。
あくまで簡易的なツールであることをご理解いただきたい。 - (PO全般の問題として)イルミネーションマップがなくなる。(後述)
- (PO全般の問題として)付属するアセットがなくなる。(後述)
似て非なる2つの技術
先に紹介した2つの技術は、ディフューズマップを書き換えることで、同じモデルでも、違うテクスチャマップの、オリジナリティのあるオブジェクトを街に配置する目的のための過程を簡易にする、という同じ目的と大まかな手段を持っており、これらは似通っているように見える。(意図的に書いたので似通って見えていると筆者的に助かる)
しかし、これらは全く違うアプローチなので、相互関係にない。
先述の通りリペイントは、既存のカスタムアセットを使いまわすことで、アセット制作を簡単にすることを目的としている。
それに対してProcedural Objectsは、既存のカスタムアセットを使い回すことで、アセット制作そのものを避けることを目的としている。
作ることを簡単にすることと、作ることを回避すること。
これらに必要な技術が違うことは明らかで、相互関係にないことも、何ら不思議ではないだろう。
まとめておこう。
リペイントは、一般的なアセット制作の大まかな4工程、テクスチャリング→モデリング→UV展開→インポートの内、モデリングとUV展開をスキップする技術だった。しかしその実態は、マニュアルや配布するテクスチャの整備により、オリジナルの作者側への負担が益々増大するもので、リペイントそのものの環境整備が進みにくい弱点を筆者は指摘しておきたい。
テキストカスタマイゼーションの登場は、そもそもアセットを作らないことで、すべての工程をすっ飛ばすことができるようになる、という技術だった。しかしその実態は、様々な制限が課された中で難しい編集をするもので、リペイントなど従来の方法と比較して、労力を割くツールが移り変わっただけで、労力が明確に減少したとは言えないものだった弱点を筆者は指摘しておきたい。
どちらも先進的で展望の強い技術ではあったが、それぞれに相応のデメリットを抱えた機能であることがご理解いただけただろうか。
という前提の上で、なんということだろうか。
これらのデメリットを打ち消し合い、両技術のいいとこどりをしたかのような機能があるらしいのだ。
これが正しく、冒頭に紹介した、今まで筆者が活用法を見い出すことができなかった、Procedural Objectsの1つの機能である。
カスタムテクスチャの読み込み
この機能を以後、テクスチャマネジメント機能と呼ぶ。
また、Procedural Objectsに読み込まれたカスタムテクスチャをPOテクスチャと呼ぶ。
テクスチャマネジメントの手順は以下に示す通りだ。
- ディフューズマップを書き換えたい建物かプロップに対応したディフューズマップを準備し、画像編集ソフトでディフューズマップを書き換える。
- Procedural Objectsが指定するファイルにディフューズマップをいれる。
- (POを選択せずに)Procedural Objectsのメインメニューからテクスチャマネジメントを開き、リフレッシュのボタンを押す。すると、先程ファイルに入れたディフューズマップが画面に表示される。
- 対象をPO化する。その後、Procedural Objectsで対象のPOを選択し、画像に示す部分をクリックすることで、テクスチャが選択でき、ディフューズマップが変更される。
テクスチャマネジメントのメリット・デメリットは以下の通りだ。
テクスチャマネジメントのメリット
- 3D編集ソフトが必要ない。
- あなたが使っている画像編集ソフトをそのまま使える。
- リペイントと比較して、工程を短縮できる(アセットを制作しない)。
- リペイントと比較して、オリジナルの作者の環境整備コストが軽減される。
- 全ての作業がシティーズのセーブデータがロードされたまま完結できる。
- PO化によるデメリットは、テクスチャマネジメントを経由して、リペイントの工程へ移行することで解決できる。(このあとすぐ後述)
テクスチャマネジメントのデメリット
- そもそもリペイントを許しているアセット・アセットクリエイターが少ない。
- アセットの構成要素全てを頒布しているアセットクリエイターはもっと少ない。
- POテクスチャが多いと、読み込み動作が重くなる。(数と記憶容量の読み込み速度に依存する)
- POをワークショップに公開する方法が一般に認知されていない可能性がある。
- (PO全般の問題として)イルミネーションマップがなくなる。(後述)
- (PO全般の問題として)付属するアセットがなくなる。(後述)
この羅列だけで、テクスチャマネジメントの凄さがお分かりいただけたかもしれない。
テクスチャマネジメントは実に、先述の2つの機能のいいとこどりをしている。
テクスチャマネジメントの登場により、アセットと対応したディフューズマップさえあれば、PO化されたもののディフューズマップを直接置き換えることで、オリジナル性の高いアセットを極めて簡単に街に置くことができるようになった。
テクスチャマネジメントは、まるでリペイントのように自由な画像編集を実現しながら、まるでテキストカスタマイゼーションのようにシティーズのセーブデータを読み込んだまま、オリジナル性のあるアセットを錬成し、街に配置することができてしまう。
これが一体どれだけ素晴らしいことか。
ここに、今までに紹介した技術をまとめておく。
図を見てもらえばわかる通りだが、仮にアセットの構成要素全てが手元にある場合、テクスチャマネジメントは、リペイントからのショートカットルートとして運用できる。
これはつまり、テクスチャマネジメント機能の工程を終えた段階で、既にリペイントのテクスチャリングの工程が終了していることを意味する。
よって、後はエクスポートをするだけで、テクスチャマネジメント機能からリペイントへと移行し、POではない形で、通常通りアセットを制作・公開できる体制が整っているのである。
この場合、通常のリペイントの工程を短縮しながら、リペイントのメリットを享受できる。
また、リペイントができる既存の建物やプロップは、全てテクスチャマネジメント機能が併用できる。
これにより、既存のリペイント可能なカスタムアセット、例えば神乃木リュウイチ氏のJPTS(日本の青看板アセット)や、jaijai氏のいすゞエルガ(プロップ版)は、これまで以上に簡便にテクスチャを書き換えることが可能になったといえる。
さらに、リペイントと比較して、クリエイターにかかる負担も軽減している。
先述の通り、テクスチャマネジメント機能を利用するユーザーは、オリジナル性あるアセットを街に配置するために、頒布されたディフューズマップを書き換えることになる。
この時、リペイントと比較して、アセットを構成する全ての要素をユーザー側に渡す必要は全くない。
また、この時頒布されるディフューズマップも、オリジナルに使用されているディフューズマップそのままである必要も全くない。
ユーザーが求めている「ディフューズマップ」とは、厳密には、展開されたUV情報のことであり、クリエイターが頒布するディフューズマップは、それが分かれば何でもいいのだ。
例えば「この範囲に画像を貼ってください」とテクスチャ上に図示し、オリジナルには書き込まれているテクスチャが無くてもいいのだ。
既存のアセットの ”ディフューズマップ” を公開することで、「○○のバージョン作ってください!!」などという乞食ユーザーに対して「お前が作れ」という選択肢を与えてやるのもいいだろう。
このようにテクスチャマネジメントは、2つの機能の弱点を補い合い、高め合ったやべぇ機能である。
例えるなら、特撮で今までライバル、あるいは敵だった奴が味方に寝返って共闘するような、そんなアツい友情タッグに、筆者は感動している。
これを革命と言わずしてなんと表そうか。
しかし、テクスチャマネジメントには、リペイントとテキストカスタマイゼーションから受け継いでしまった2つの弱点があった。
その1つは、ディフューズマップが公開されていないものはテクスチャマネジメントの対象にできず、アセットの構成要素全てが揃っていなければ、リペイントの工程に移行できないことだ。(もう1つについては詳しく後述する)
先に示したような優男なアセットクリエイターさん達のおかげで、構成要素が全て揃った(テンプレートがある)アセットもあるが、まだまだ種類は少ない。
ディフューズマップ公開してる人あんまいないしな……
ディフューズマップが頒布されたアセットがもっと増えればな……
欲を言えば、誰か、テンプレート作ってくれないかな……
あ。
僕が作ればいいのか。
ここからは筆者のTwitterに投稿した通りの流れとなる。
直面した障壁
4月初旬、筆者は、いわゆる「ポール看板」の制作に取り掛かった。
当初は、筆者が初めて公開したマクドナルドの看板のように、田楽を作っていた。
私が何度かTwitterに投稿した、無地の看板だ。
皆さんに公開・頒布できる汎用で簡易なアセットを制作することを目的として、私は思い立ったが吉日とばかりに、試作モデルをすぐさま完成させた。
そして、それをPO化して、ポール看板の使いやすさ、ひいては筆者のアイデアを、Twitterなりdiscordなりに投稿して、皆さんに自慢してやろうと思った。
しかし、それはできなかった。
筆者はここで壁にぶち当たった。
付属するプロップが消えてしまうのだ。
PO化の”デメリット”
PO化すると、PO化される前の建物・プロップのカスタムアセットにはある、機能の一部が失われることが知られている。
具体的には、アセット制作時に付属させるプロップ、あるいはイルミネーションマップをPOに引き継ぐことができない。
これらは、アセットを発光させる方法の2種類そのものであり、つまりこれは、POは基本的に発光しないことを意味する。
しかし今回制作しているポール看板において、看板を照らす照明は必須で、PO化によってこれが消えてしまうことは非常に大きな問題だった。
とはいえ、ここまで説明を繰り返してきたように、今回の目的はPOによるメリットを活かすことでこそ実現できるものである。
こうして筆者は、テクスチャマネジメントの恩恵を受けるためにPO化したいが、付属プロップが失われるのでPO化したくない、というジレンマに突入し、壁にぶち当たることになったのである。
この壁を突き破るのに2,3日は悩んだ。
そして筆者は、ある結論に辿り着く。
せや、パーツに分ければええんや。
JPMSの紹介・解説
JPMS・JPMS poleの概要
JPMSは、2022年6月19日、ケミカル/Chemicalが公開した「JPMS pole」というアセットパックを皮切りに展開された、日本のモジュール式の看板アセット群の総称である。
JPMS = Japanese Module Sign
看板をモジュール化することで、テクスチャマネジメント機能による単調なテクスチャ変更だけにとどまらず、カスタマイズ性を高めた看板アセット群となることを目標としている。
JPMSのセールスポイントは、以下の通りだ。
- モジュールの多様な組み合わせができ、ユーザーごとにこだわりとオリジナリティを醸せること。
- Procedural Objectsのテクスチャマネジメント機能と、クリエイターから公開されたディフューズマップを用いて、あなただけのデザインの看板を街に配置する工程のすべてを、シティーズを起動したまま実施できること。
- クリエイターから公開されたアセットの構成要素を用いて、テクスチャマネジメントで書き換えたディフューズマップをもとに、リペイントの工程へ円滑に移行することで、ユーザーは、POより自由度の高い特性を確保できるだけでなく、あなただけのデザインの看板をワークショップへと共有できること。
- モジュール間でテクスチャが共有されているので、Loading Screen Modを活用することで読み込み量が軽減されること。
- 配布部分とそうでない部分とで分け、配布部分のテクスチャリングを簡素に設計することで、ユーザーはテクスチャマネジメント機能・リペイントを簡単に行えること。
- アセットクリエイトとコミュニティの益々の発展を望むこと。
この度公開されたJPMS poleは、特にポール看板に焦点を当てたものとなる。
以下はJPMS poleの制作の意図である。
- ポール看板をモジュールに分けることで、POと非PO両方の長所を生かすことができること。
- 照明が付くこと。神乃木氏の夜間照明アセットが使われている。
- JPMS_pole_chemiは、JPMSで唯一前提MODを必要とせず、単体で扱えるアセットだが、JPMS_pole_plateと互換性があり、併用できる。
以上をまとめると、こうなる。
- 3D編集ソフトが必要ない。
- あなたが使っている画像編集ソフトをそのまま使える。
- 従来と比較して、工程を短縮できる(アセットを制作しない)。
- 全ての作業がシティーズのセーブデータがロードされたまま完結できる。
- PO化によるデメリットは、テクスチャマネジメントを経由して、リペイントの工程へ移行することで解決できる。
そもそもリペイントを許しているアセット・アセットクリエイターが少ない。(筆者が許す)アセットの構成要素全てを頒布しているアセットクリエイターはもっと少ない。(準備した)- POをワークショップに公開する方法が一般に認知されていない可能性がある。(後編にて解説)
イルミネーションマップがなくなる。(PO化しないモジュールと結合させるので問題なし)付属するアセットがなくなる。(PO化しないモジュールと結合させるので問題なし)
JPMS poleの使い方
JPMS poleは、ポール看板の表示面部分(plate)、枠部分(edge)、支柱部分(piller)、枠部分と支柱部分が1つになったもの(frame)、基礎部分(end)など、モジュールが細かく分けられている。
基本的には、plateとframeの2点、あるいはendを加えた3点のモジュールがあれば、ポール看板の要件は満たせるだろう。
残りはほぼ全てオマケで、玄人向けだ。
JPMS_pole_chemiには、僭越ながら筆者の名前を付けた。
これは組み立て済みであり、もちろんバニラでも使うことができる。
従来通りのポール看板に近しいが、少しだけ設計に工夫をしてみた。
建物に名前を付けると、plateモジュールに相当する部分が消える仕様となっている。
画像のように、このぽっかりと空いた部分にplateモジュールを差し込むことで、自由に看板の表示面を書き換えることができるように設計した。
JPMS_poleはすべてモジュールアセットであり、JPMS_pole_chemi以外は単体での運用は想定していないため、Steamの概要欄に明記されたMODが全てインストールされたプレイ環境を前提としている。
必須MOD
- 「Move It」
- 「Procedural Objects」
- 「Prop & Tree Anarchy」、 または同様の機能を有するMOD
- 「Prop Precision」、または同様の機能を有するMOD
推奨MOD
- 「Prop Painter」、 または同様の機能を有するMOD
- 「Repaint」、 または同様の機能を有するMOD
配置の手順は以下の通りだ。
- モジュールをすべてマップ上に配置する。
- Procedural Objects, Prop Painter, Repaintなどの適切なMODを使い、各自モジュールの仕様を変更する。
- マップ上でモジュールを結合する。
ね?簡単でしょう?(ここだけは動画見たほうが分かりやすそう)
JPMSのオブジェクト結合について
当然のことながら、アセットをモジュールとして分割して設計したからには、JPMSはユーザーによって簡単にシティーズ上で結合できなければならない。
筆者は、JPMSの簡易な結合手法の模索に1ヶ月弱程を費やした。
結論から言えば、1ヶ月弱の研究の結果、最適解は得られなかった。
その過程で積もる話もあった訳だが、これは中編に繰り越すことにする。
(中編の内容も含めて前編とするつもりだったが、実際記事を書いてみると余裕で2万文字を超えてしまったので慌てて3編に割った)
とはいえ、その過程で優れた解を複数見つけたので、中でも最も説明がしやすいものを簡単に紹介する。
座標指定移動による結合
「Move It」の座標指定移動を使ったモジュールの結合である。
手順は以下の通りだ。
- 結合させたい物体の1つを選択し、座標を控える。
- 座標を控えた物体以外を1つ選択し、控えた座標を入力し、「実行」を押す。
- 2つが結合する。すべてのモジュールが結合するまで、2,3を繰り返す。
- 看板が完成する。
このような過程を取ることで、シティーズ上で複数のアセットを一つに結合できる。
この方法の最大のメリットは、モジュール間に一切の誤差のない結合が簡単にできることだ。
モジュール化と結合から見る展望、あるいは筆者の妄想
2つの基幹技術「テクスチャマネジメント機能」と「ある結合技術」により、風変わりなアセット「JPMS」は、シティーズを起動したままにして、様々な看板を錬成することが可能になった。
そしてもちろん、2つの基幹技術は、ポール看板だけに使えるわけではない。
例えば、カミノギさんの「三角地の店舗」アセットで考えてみよう。※2
「三角地の店舗」は、建物に記銘するとオーニングテントを消すことができる仕様となっている。
(お気づきかと思うが、JPMS_pole_chemiは「三角地の店舗」を参考に制作した。)
オーニングテントなどのパーツが外れると、極めてプレーンな建物のみが残る。
そして、残ったベース(メインメッシュ)を装飾することで、自分好みの建物にしてしまおうというコンセプトであろう。
さて、ここからが本題だが、例の2つの基幹技術があれば、サブメッシュ(オーニングテントなど)をモジュールプロップとして予めシティーズへインポートしておくことで、店の外観をシティーズ上で自由に書き換えることができるようになる。
オーニングテントの色や表示された文字・ロゴを書き換えて、あなただけのお店を作り上げることができる。
そしてシティーズ上でのオブジェクト同士の結合技術によって、オリジナルから寸分の狂いなく、オーニングテントと店名表示板を配置することができるだろう。
アセット制作の正規の工程を一切取らない革命的なテクスチャマネジメント機能と、アセットを複数のモジュールに分割することで、PO化のデメリットを帳消しにし、POオブジェクトをより高度化するシティーズ上での結合手法。
これら2つの基幹技術は理論上、アセットの全てを上書きして書き換えられるはずなのである。
……“ディフューズマップ”さえあれば。
ということで、そこのアセットクリエイターさん、公開しているアセットの”ディフューズマップ”を頒布すること、ご検討のほど宜しくお願いしたい。
それさえあれば、例えクリエイターであられるあなたがアセット制作を引退したとしても、ワークショップ上でアセットが生き続けるはずなのだ。
UV情報が分かればそれだけでいいので…是非とも…。
アセットが別物かのように踊りだす、そんな夢を筆者は観たい。
JPMS pole制作過程ツイートまとめ
筆者は、結合の問題だけでなく、通常のアセット制作同様、BlenderやGIMPとも日々格闘した。
試行錯誤の末、アセット制作には2ヶ月余りを要してしまった。
もっと早くお届けできるはずだったのだが。
許してほしい。
(この辺からアセットできたできた詐欺が始まった)
(ぼかぁこの時は確かに完成したと思ってたんだけどなぁ)
悪気はなかったですが、本当にすみません。ぼかぁそういう人間なのだ。
終わりに
ところで、テクスチャマネジメント機能は、筆者が今まで活用法を見出せなかった機能だった。
にも拘わらず、なぜ今筆者が知っているのか。
それは偉大な先駆者様がいるからだ。
JPMSが参考にしたのは、SvenBerlin氏の「City Advertising PO pack」だ。
このアセットは、市中の看板を自由に書き換えることができるアセットとなっている。
日本の街では見慣れないものもあるが、こちらも是非サブスクライブしていただきたい。
中編では、オブジェクト結合の研究結果から得られた「大革命」とその展望について解説する。
後編では、アセットの作り方について、画像編集ソフトGIMPを使用しながら、実際にオリジナルのポール看板を作る工程をレクチャーする。
是非JPMS poleをサブスクライブして、更新を待ってほしい。
中編・後編に続く。
2022/06/19 初稿
2022/06/26 公開したJPMSのSteamリンクを追加
※1 コンピューターの歴史は圧縮そのものである。
「スマホの容量がカツカツだから入れたいアプリが入らないよ~」
「○○ってアプリの容量デカくね?」
こんな会話をあなたもきっとしたことあるはずだ。
もしスマホの容量が無限だったら、容量のことで誰も困りはしない。
コンピューターにおいて、効率を追い求めることこそ至上命題であり、より少ないデータ量でより高い再現性を確保することが望ましいとされている。
※2 本筋からは逸れるのでここに書いておくが、神乃木師匠にはお世話になりっぱなしである。
師匠のモデリング動画には何度もお世話になったし、多分今後もお世話になりそうだ。
「神乃木さん、質問です。三角地の建物についているオーニングテントを消す動作はどのようにされているんですか?どうしたら再現できますか?」などと厚顔無恥、ずけずけと師匠にDMを送っては「これはこのMODを入れてフラグメントを立てるんだよ~」などと教えていただいた。
ありがてぇありがてぇ……
ちなみに三角地の建物といえばゆっくりアセット制作動画の題材となったアセットだが、動画をモデリング勉強のために見返す度、冒頭の「ゆっくり18分モデリング」「マジでゆっくりだな」の掛け合いで吹き出してしまう。デジャヴってやつだな。好きだ。
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